「ワァ、きれい!」
娘が思わず言った。
前を見ると、陽の光を受けて、
黄金色に輝くケヤキの葉が、ハラハラと舞い落ちていた。
黒い大木、黄色くなった無数の葉、
忍び寄る冬を前に、身を軽くする準備を怠らない樹々。
立ち止まって上を仰ぐ間も、
止まることなく散り急いでいる。
山里の秋の風情とは又違った趣が、
この辺り一帯にはある。
ケヤキは都会を彩る木だと、つくづく思う。
青い春、芽吹く頃は若々しさの喜びにあふれ、
朱夏には、緑陰深く、暑さをひととき忘れさせてくれる。
玄冬、木立はすっくと背を伸ばし、
寒さにも耐えて、物思いにふけっているように見える。
そして今、白秋の時。
木の葉の散りゆく様は、
春の桜吹雪と比較するのを躊躇うほど、
静寂の中に在る。
又、「セーヌの畔」に来ている。
「大川の畔」ではカッコつかないのかもしれないが、
セーヌ川にヒケはとらないだろうに、と思いつつ、
テラスは少し寒いけれど、私はここが好きだ。
指折り数えてみると、絵を渡してからもう7ヶ月が過ぎた。
あした、花と龍とあの子供達に又、会える。
私にとっては、世紀の瞬間と言っても、
決して大仰ではない。