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花の思い出⑥ くちなし

13歳の春、少女はその少年に初めて会った。
中学入学後2カ月が過ぎようとしている頃。

放課後の校庭で白球を追う野球少年達の中に、ひときわ目立つエースがいた。
その姿を見た時、少女の胸に「ドキッ」と大きな音がした。

そしてその少年の家がバス停の前だと知った時、突然ある計画が頭に浮かんだ。
その日の少女の手には、くちなしの花が一枝、しっかりと握られていた。

少女はバスに乗ると、少年の家に向かって花を投げた。
少年が見ていた訳でもなく、投げたとて、届く距離ではなかったけれど。

それでも行動したことで、少女の想いは充分に達せられたように思えて、
満足であった。

ところが翌朝、くちなしの花は少女の許へ帰ってきた。
教室の机の上に、今折ったばかりの白い花が香りを放っている。

見ていたンだ!
再び少女の胸が鼓動を早めた。

数日後、バス停でポツンと座っている少女の前に、ユニフォーム姿の少年が現われた。
少年は白いくちなしの花を「これ…」と渡しただけで、校庭へ駆けていった。
少女の心臓は、胸を破って今にも飛び出してしまうのではと思われた。

花にまつわる初恋物語を書けるなんて、シアワセねェと友人が言った。
40数年も以前の、世の中が極彩色で塗りつぶされていない時代の、
短編物語である。

http://hw001.gate01.com/gyokureikai
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玉麗

  • Author:玉麗
  • 大阪在住の水墨画家。
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